
ウルトラシリーズの記念すべき最初のシリーズ「ウルトラQ」。
そいつは第13話にチルソニア遊星人という設定で登場した。
ロボット怪獣“ガラモン”を操り東京の街を破壊する侵略者。
人間の姿をしていたが最後には写真の様な宇宙人の正体を現す。
その奇怪な姿から“セミ人間”と後に呼ばれ定着するようになった。
この着ぐるみはのちのシリーズ“ウルトラマン”に“バルタン星人”として改造され流用されたことは有名な話である。
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今から3年前の8月のこと
俺は今の職場より二駅先の東武東上線「成増駅」を利用していた。
いつものように出勤し、北朝霞から東武東上線に乗り継いだ。
うだるような暑さ。 したたりおちる汗。
電車の冷房に冷やされながらも止まらない汗を
俺は懸命にタオルでぬぐっていた。
準急池袋行は目的の「成増」まで各駅に停まる。
「朝霞駅」についたときふいにけたたましい音とともにそいつは車両に飛び込んできた。
……“蝉”だ
[0回]
独特の乾いた羽音をカチカチ鳴らしながら電車の中に飛び込むと
あろうことか汗のしたたる俺の左こめかみに停まった。
「!!!!!!!」
子どもの頃夢中で虫とり網で追いまわしていた“蝉”。
しかし大人になった今では触るのもおぞましい忌むべき生命体“蝉”。
8月のシーズンになると夜中、一人暮らしのアパートの玄関にはりつき
一晩中ジィジィ鳴きわめく、悪魔の使い。一体奴らは一週間しかない己の命の一晩をこの玄関で鳴く事に費やしてどうするというのか??
成増の事務所はビルの8F、健康に気を使って非常階段で上がると
踊り場に異常な数の“蝉”がこと切れて仰向けに倒れている。
そばを通ると死に切れない“ゾンビ蝉”がバリバリと羽音を立てて
通る人間をパニックに陥れる―呪われた歓楽かなわぬモンスター“蝉”
その“蝉”が朝の電車、俺の顔にがっしりと停まったのだ。
一瞬のパニック!!!
とっさに俺はこめかみに停まった“蝉”を左手でつかみ、勢い余って床にたたきつけた。
“蝉”は床にバウンドして仰向けとなり手足を力なくバタつかせた。
周囲の複雑な目、目、目……俺にどうしようがあったのか……
“蝉”はやがて動かなくなった……
大きく呼吸を乱し今起きた状況を整理しようと立ち尽くす俺
「…かわいそう」夏休み、親子連れだろうか…小学生くらいの男の子がつぶやいた。
時間が止まった。 乗客も凍りついて動かない。
かわいそうなのは“蝉”か?“俺”か?
そんな俺を見て乗客はきっと思ったことだろう
……「セミ人間」
そう、俺はセミ人間…今世紀中、やつらが人間であるかぎりはおれは局外者(アウトサイダー)としてその存在を否定され続けるのだ。
「成増駅」に到着するや俺はよろめくように電車を降り、朝の乗客の中に姿を溶け込ませた。
こんなにも多くの人間がいるというのに
俺は例えようもない孤独に打ちひしがれたまま
会社にむかって歩きつづけた。
(完)
子どもの頃あれだけ夢中で追いまわしそのたびに逃げ回っていた“蝉”がこんな形で襲ってくるとは……
昨日の“蛾”の一件を書いたら、なにげに昔の体験を思いだしてしまい二日連続ハードボイルドスタイルで書き連ねてしまった(笑)。
明日から普通に戻りますね。
それじゃ
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